<WillとSkill:どこかおかしい日本企業> 大谷 弘
筆者は1938年生まれ。右肩上がりの高度成長を迎える時期に社会人となり、企業において研究開発・商品事業化・工場運営・事業撤退・営業を経験してきました。15年前に定年退職。その後は過去の経験を活かしたコンサルタントで社会のお役に立ちたく起業しました。
日本経済の低迷、いつ頃からこの様になったのでしょうか。産業のグローバル化、新興国による技術のキャッチアップ等々、専門家の解説には納得させられるものがあります。これとは別に、「申し訳ございません」といって頭を下げ不祥事を詫びる姿がよく報道されますが、筆者にはこの現象と日本経済の低迷が決して無関係とは思えないのです。単なる想定外の不祥事、想定外の不良問題と言うのではなく、その原因は自らの組織に内在すると考えるべきだと思います。不良対応をモグラ叩きに例えると、不良モグラを叩くことに精力を費やしている間は、いつまでたっても不良は無くなりません。モグラ発生の原因を追究してその対策を取らないからです。
企業はWILLとSKILLが両輪となって運営されるのが理想だと常々思っています。しかしながら、現状ではWILLの重要性を忘れている企業が多いのではないでしょうか。WILLは"志"、"経営理念"と言う企業活動の根幹となる考え方で、SKILLはそれを実現するための業/技です。かつてはWILLがしっかりとしていたので、後れていたSKILL教育が人材教育の中心でした。その結果、今では、SKILLが先行してWILLの育成継承が疎かになってしまったと感じています。「もの心がつく」とは、だいたい7、8歳の頃のことを指しますが、これはことの善悪の判断がつく事を意味しています。と考えると、問題を起こす企業は組織として「もの心がついていない」と考えるべきで、WILL、即ち 経営理念が組織の隅々まで浸透されていないからだと思います。
コンサルタント会社を起業し数々の経験を踏んで来た旧友との会話から、立ち行かなくなった、或いは、なりつつある企業のトップに共通する要因は、次に集約されます。
◆経営理念の喪失(志が無い、企業の原点が見えない)
◆人材育成を怠り、結果人材を育てていない(自分で考えない、待ちの姿勢)
◆戦略性に乏しい(行き当りばったりで将来を見据えた行動が出来ない)
◆正しい情報を入手していない(人脈が乏しい、心地良い情報のみ入手、側近はイエスマンのみ、トップが自ら現場を知ろうとしない)
◆競争意識の欠如(危機感を持たない、スピード感覚ゼロ)
◆素直に学ぶ姿勢に欠ける(従って成長が止まってしまっている)
筆者は、日本人独特の国民性は、生きとし生けるものへの愛情・思い遣りから来る「もののあわれ」を基盤に醸成され、更に「惻隠の情」と「卑怯を憎む心」で代表される武士道精神が現実的な生活の規範を作って来たと、長年思っております。と考えると過去の日本では「もの心がつく」頃にはこの理念がしっかり教育されていたかと思います。
我々が確かな未来を掴み、正しい日本の姿を取り戻すためには、初心に戻って、当たり前の事を一生懸命にやり直すべきではないでしょうか。「もったいない」や「お・も・て・な・し」が海外から高く評価されている今なら、日本人は自信を持って、これを進めていけると思います。
最後に人材育成を経営理念に掲げ、それを日常の活動で実践されている某社の企業経営理念を紹介させて頂きます。久々に清々しい気持を感じた経営理念です。
・お客様から価値を認めて頂ける仕事のできる人をつくろう
・仲間が誇れる嬉しくなる仕事のできる人をつくろう
・常にロマンを感じる創造ある仕事のできる人をつくろう