<「いかに技術を経営に活かすか」に取り組む> 西口 泰夫
新年明けましておめでとうございます。本メールマガジンをお読みの皆さんのご多幸とご活躍をお祈りいたします。
1 日本のエレクトロニクス企業2社からカーブアウトされたシステムLSI(SOC)事業を統合した新会社(株)ソシオネクストが3年弱前に設立され、その後一つの通過点としてIPOをすることを目標に、あらゆる面での経営の質を向上させることに、私自身は現在CEOとして取り組んでいます。
当社は、全ての日本半導体産業がグローバル競争の中、厳しい経営環境に曝され、事業としての存在価値を失ったであろうと判断した企業2社から生まれた会社であります。現在総数2800人規模の中、2000数百人のSOC設計開発技術者が中心に事業活動をしています。
日本の多くのエレクトロニクス企業は、20年から30年前には、それぞれの企業において、理工系出身者の中でトップクラスの人材を積極的に半導体事業に配属をしたと思われます。多くの優秀な技術集団を抱えながら、各社半導体事業のその後の経営結果は先に述べた通りでした。この原因は多くあったと考えます。今回は、主な2つの原因について述べ、自身の経営の場での取り組みを述べます。
2 当時の大手エレクトロニクス企業各社の半導体事業部門は、社内のエレクトロニクス機器事業部門のニーズに対応したSOCを供給することが主たる役割であったでしょう。
これは戦後の日本企業が目指した垂直統合型(IDMモデル)の実践例であります。
1970年代から、エレクトロ産業の基本技術はアナログ技術から、デジタル技術、マイコン、ソフトウエアー技術時代に入り、根本的技術のパラダイムシフトがグローバル規模で起こりました。これを機に世界のエレクトロニクス産業はアメリカ、台湾、韓国、その後中国等が、技術、産業構造において新たなエコシステムを構築し、結果的には国際的水平分業型になり、大きくまた急速に発展していきました。
残念ながら日本はこの流れに追随出来なかったと考えられます。この結果、先ずは日本各社のTV、パソコン、サーバー等エレクトロニクス機器事業の国際競争力が弱まり、これら事業の衰退、撤退が多く見られ現在もその傾向は続いています。これに伴いIDMモデル内に位置するSOC事業は存在価値が下がり、当然衰退せざるを得なくなりました。これが有力な原因の一つであると考えます。
3 他の有力な原因は、優秀な人的資源、多額の金銭的資源等多くの資源投資を行い、研究開発を行った結果、多くの先進的技術、さらに特許を保有しましたが、これら多くの高度な技術資産をグローバル競争の中においての事業競争の武器として活用することが出来ず、すなわち経営に十分に活かせなかったことにあると考えます。ある種の技術経営の問題であります。
4 現在、SOC事業企業の経営を行うに当たり、主にこの2つの原因を取り除きながら冒頭に述べたような経営結果を生み出す新たな原因づくりを行っています。
先ずはビジネスの場は日本のみならずグローバル市場に求めています。このために必要とする技術、販売リソースをこれら市場に集中的に投下しています。また創業時から企画、開発、商品化に取り組んだ事業は、2年半経過した今から成果として売上、利益に貢献することを見込まれます。
次のあらたな原因作りとしては、自身のテーマである「いかに技術を経営に活かすか」に取り組んでいます。
5 「いかに技術を経営に活かすか」を実現するために、論理的にシステマティックに行うビジネス・マネジメントシステム(BMS)を考案、導入及び実践をしています。このシステムは複数個のシステムで構成されています。経営戦略と技術戦略の一体化を基本として、各組織、各人はBMSの複数個のシステムを目的に応じて活用しながら、個の部分最適を追求してその成果が部門、会社が求める全体最適を創造することを目指しています。一般に部分最適と全体最適を共存することは矛盾であり困難と考えられますが、BMSを用いることによりその矛盾を取り除き、これを実現する事を目指しています。
6 これら2つの原因により、長きに渡り衰退を繰り返したSOC事業が今後成長軌道に乗せることが出来るかは、これからの経営結果で判断することになります。今はこの結果を見る前の苦しみの時期であると同時に、大いに期待を持てる楽しみの時でもあります。