「中堅企業」を考える>      余田 幸雄


 

1 中堅企業は、中堅・中小企業と一括りで扱われることが多く、単独に議論されることは少ない。しかしながら、今、以下の理由から「中堅企業」を取り出して議論する時ではないかと考える。①地方経済・地域の雇用の担い手、②世界に通用する特異・得意な技術・製品の担い手、③オープンイノヴェーションの担い手、④非公開企業群の中核的な担い手、そして、⑤ヴェンチャー企業と相性が良くそのイグジットの担い手である。

①の点では、雇用を始め福祉面でも街の維持でも地方の社会経済システムの担い手は、中小企業よりも一回り大きく、かつ大企業の支店や工場ではない自律的意思決定のできる中堅企業であろう。「地方特有の産業構造を踏まえた活性化のポイント」
(20164月大和総研 鈴木文彦氏)では、人口と産業との相関関係を分析し、大都市偏在はIT・コンテンツ等、人口が少ない地方に特有なのは機械器具や食品の小売業・自動車整備・郵便局等、人口が比較的少ない多くの地方には、飲料・食品製造、繊維、電子部品デバイス、農林産等と指摘している。これらの業種に中堅企業を重ねるのは無理があるだろうか。

②では、経産省製造産業局が「グローバルニッチトップ企業
100選」として、過去3年以内に1年でも10%以上の世界シェアを確保したことがある中堅企業25社、中小企業69社を選定している。中小企業が多いのはニッチになればなるほど特色ある技術・製品がシェアを取り易くなるからかもしれないが、中堅企業25はいかにも地域の有力企業で名前も良く見聞きする企業が多い。残念ながら2014年に一度だけ作業されその後がない。なお、HPで見る限りでは、これら中堅企業の平均従業員は1150人、中小企業は230人である。

③について、既存の組織や枠の中に止まらず外部との連携を図り、内部あるいは外部にあるリソースの有効活用を図りイノヴェーションを起こそうとすることには誰もが異論は無くなってきているが、技術やトレンドの移り変わりが益々速くなり競争も地球規模となって、意思決定と行動を一層加速せざるを得ない中では、そのスピードの点で、大企業ではなく、中堅企業に歩があると考えるのは自然ではないだろうか。

④については、創業者一族が株式を保有する非公開企業で特色ある事業経営を長期間に渡って維持している有名企業が世界的にも多い。勿論、非公開、オーナー企業であることの功罪はあるが、長期戦略に立って素早い意思決定を行いながら厳しい競争に打ち勝っていくために公開企業から非公開企業に戻る企業も出ているように、大規模でもなく小規模でもない中堅のオーナー企業の方がこれに向いていると考えるのはおかしいだろうか。

ヴェンチャー企業と相性が良くそのイグジットの担い手であることに関し、別途筆者が行っているヴェンチャー支援の活動の中で、中堅オーナー企業との出会いと彼らの判断の速さに助けられたという指摘をヴェンチャーや支援者から良く聞く。ユーザとして、事業買収者として、結果実現しない場合であっても、オーナーの素早い判断を評価している。ヴェンチャーにとって大企業は大きく距離が有りすぎ、中小企業にとってはヴェンチャーを相手とすることにはリスクが大きすぎる。


2 筆者の頭の中では①から⑤が混然と繋がっていて中堅企業が更に活躍できる環境を整え政策や対策を取るべきだと考えるが、実は、中堅企業の定義がはっきりしていない。中小企業は法律で定義され中小企業庁が政策を担当する。この定義を超えると直ぐ大企業となるが、経産省等の報告では中堅・中小企業と一纏めにされるか大企業・中堅企業と並べられる。②の「
100選」は数少ない例で売上1000億円以下の大企業を中堅企業としている。


3 定義について管見では、慶応・磯辺教授が中心とされる「中堅企業研究会」は年間売上
10億から1000億円の企業を対象とし、東京商工会議所が纏めた「中堅企業を目指す中小企業へのメッセージ」では資本金1億から10億で従業員100人から999人を中堅企業としている。法人企業統計は資本金1億円以上10億円未満を中堅企業としている。

4 なお、最後に経済の好調なドイツでは中小企業
(Mittelstand)の活躍がよく指摘されるが、ドイツの中小企業の定義は従業員500人以下又は年間売上高5000万ユーロ(50億円強)とするレポートがある。これだと我が国では大企業に分類される中堅企業も含まれることとなるので、ドイツの中小企業が強いという原因は、意外とここらにあるのかもしれない。