技術開発にとっての「Surprise」と「感動」>      馬渡 惇

人生で「Surprise」を感じる事、また「感動」する事は、いつ、起きるのでしょうか。その時代背景にもよると思いますが、数年後、数十年後に思い出しても、あれは素晴らしかったと思う事が幾つかあると思います。


 1 1970年代から液晶技術の開発、事業運営に携わってきた筆者にとって、液晶技術で「Surprise」と感じたことは、1981年に東北大から発表されたカラー液晶でした。現在のカラー表示の原理であるRGBのフィルターを液晶セルの内面に配置した液晶表示を見た時、それまで白黒表示の画面しか見ていなかった筆者を含め開発に携わっていた者にとっては、まさに「Surprise」でした。上司から「ドブネズミ色」を何とかしろ!とうるさく言われていましたので・・・しかしその時でも、現在当たり前であるTVの液晶表示が実現するとは思っていませんでした。

 次の「Surprise」は、1984年に、EPSONから高温ポリシリコンTFT2.1インチ・カラーTVが発売されたことでした。小さい画面ながらも、CRT以外でフルカラー動画表示が実現したことは「Surprise」でした。  

 1984年にスイスBBCからSBESTNの原形)の発表があり、640×240(Half-VGA)の表示を見た時も「Surprise」でした。これを基にSTN技術が開発されました。TFTを使わないパッシブ駆動の大容量表示の道が拓け640×240HVGA表示が可能となり、応答速度をクリティカルな問題にしないワープロに使われたのちにVGA表示も開発され、液晶の応用範囲がぐっと広がるきっかけとなりました。

 1990年にTFT10.4インチのVGA表示が発表され、高速での応答表示が可能となり、一気にパソコン用表示の主流となりました。10.4インチ画面に100万個近い薄膜トランジスターができた事に「Surprise」でした。 

 この技術をベースに現在のTVが、CRTから液晶に代わってしまった事は感慨深い事です。更に、昨今は80インチの4KTVも発売され、長年液晶Displayに携わってきた筆者にはまさに「Surprise」です。 

 

2 「Surprise」とは何でしょうか? 人それぞれの技術の経験、価値観等で変わると思いますが、例えば技術レベルで20%、30%性能が良くなってもSurpriseとは思わないのではないでしょうか? 今まで出来なかった事がブッチギリで出来ることが「Surprise」であり、そこに開発者の「顔」と「行動」と開発を実現した「思い」が見えてくると、「感動」を覚えるのではないでしょうか?

 人は対象が何であれ「Surprise」と感じる、「感動」する感覚は重要ではないかと思います。 

 

3 昨年、20157月に発表されたGREEN500スーパーコンピュータの省エネ性能ランキング)で1位に認定されたスーパーコンピュータShoubu(菖蒲)は、時代のニーズに合った素晴しい技術で、まさに「Surprise」でした。理化学研究所、PEZY Computing及びExaScalerの三者の共同研究で開発されました。2011年に理化学研究所と富士通で開発された世界最速のスーパーコンピュータ「京(けい)」は、一般家庭の消費電力3万世帯分の電力を消費するのに対して、Shoubuの処理能力はその5分の一でも、消費電力は250分の一だそうで、これによって、実用的な応用範囲は格段に広がると思われます。勿論「京」の存在がShoubuの開発につながったと思われますが・・・ 

 

4 私は東京駅からJRで1時間半位の青梅市に住んでいますが、青梅市に、明治元年創業のHotmanと言うタオル製造会社があります。東京都立産業技術研究センターにおける知的資産報告書策定支援の第一号として認定された会社です。大変特徴あるビジネスをされていています。それを象徴する宣伝方法があります。他社との比較で1cm×1cmのタオルの断片を水面に同時に落とすと、Hotmanのタオルは瞬時に沈みますが、他社品は45秒以上掛かってから沈みます。つまり、水分をいち早く吸水するタオルの本質的な機能を、視覚に訴えた判り易いデモで実現させ消費者に訴求できている事にSurprise」でした。Hotmanのタオルは1秒タオルと呼ばれています。1秒タオルは簡単に出来たわけでなく、同じ青梅市在住の私にとって、最初は絹織物から始めた同社が絹から綿に業態を変えたことに、CRTが液晶に代わったのと同じ「Surprise」を感じ、原材料の選定から特徴ある工程作りまで、長年、タオル本来の性能を究め続けてきた人達のことを思い浮かべると「感動」を覚えます。 

 

5 「Surprise」や「感動」する感覚は、歳を取っても持ち続け、日々の生活と向き合う事は重要だと思っています。