<混沌の時代、会社の軸をより強固にするモノは?> 鈴木洋三
皆様、あけましておめでとうございます。昨年はブレグジット(英国のEU離脱)、トランプ次期アメリカ大統領の誕生等、政治上大きな変化が起こりました。引き続き今年も此の流れは世界のあちこちで起きそうな気配であります。また、我々企業経営を取り巻く環境もIoTやAIの広範囲な且つ急激な進化により、大きな変化の流れが今年も更に拡大していくことが予測されます。
大きな変化はビジネスモデルにも表れています。商品開発は1つの技術だけは完成できない、一人の天才だけでも完成できない。また、企業も単独では商品を産むことができない、協業の機会は増えるばかり、という状況です。これをビジネス全体で見ると、一つの国の中でも完結しない、一つの産業界の中だけでも完結しない等となり、此の様なビジネスモデルが増えつつあります。
これらの事象から最近のビジネス環境は従前に比し極めて多くの人の関わり合いで出来上がって居ると言えるのではないでしょうか。このため、今のビジネスパースンは100年前(イヤ20年前)の彼らより遥かに高いコミュニケーション能力が要求されていると考えられます。企業経営者にとって社員一人ひとりが高いコミュニケーションレベルを有するか否かは、企業の存続に直結する重大な事柄であります。そこで、筆者の経験をベースにビジネス・コミュニケーションについて考察して見たいと思います。
自分の思いを相手に伝える、相手の思いを理解する、と云う事がコミュニケーションであるとして、どの様にしたら此れを成し遂げられるのでしょうか。筆者は今から約30年前のメキシコでの工場立ち上げ時のある事件をきかっけに、「相手の立場に立って考える」事が基本だと気がつきました。しかしその後いくつもの失敗を経験し、「相手の立場に立って考える」事は各人の生きて来た環境が各人各様である事から、如何に努力しても相手の立場に立つ事は不可能である事も判りました。
では、如何にしたら此れに近づく事が出来るのでしょうか。第一に大事なことは「知識」です。知らない事には始まりません。信号が赤なら止まれ、を知らなければ社会生活ができません。メカトロニクスを応用した商品設計の技術者は自分の専門分野以外に機械工学、電気・電子工学、情報工学、制御工学の基礎知識が無いと良い商品は生まれません。多民族の人が集まったプロジェクト運営では異なる文化、宗教、価値観、表現方法がある事を知らなければ、相手の立場に立って考える事など全く不可能な事だと思います。
インターネット環境の発達した今日、従来に比して豊富な知識を得るための環境は極めてリッチに成って来ました。では知識が豊富に成れば「相手の立場に立って考える」事に近づけるでしょうか。答えはNOです。人間が健康体を保つ為に栄養バランスの良い食物を取ることは必要ですが、これに加え適度な運動量、適切な環境での生活等が欠かせません。此れと同じで、知識と云う各種の栄養素を吸収した後は、出来る限りの多くの事を「経験」して知識が血と成り肉となってその人の身につくのだと思います。
筆者のこれまでの企業経験を思い出してみると、大きなピンチに追い詰められた時こそ成長があった様な気がします。経営者の皆様、是非社員に多くの経験の場を与えてやって下さい。そして失敗の経験をさせてやって下さい。必ずやその失敗は将来の優れた判断につながります(誤った判断が真の経験につながる)。しかし今はそんな「ゆとり」は無いと経営者の皆様は仰るかもしれませんが、チャレンジをさせる事こそ経営者の大事な仕事だと考え、是非ご一考ください。
「知識」と「経験」はコミュニケーション能力を上げて行く為の両輪である事は時代が変わっても普遍であると今でも思っています。
ガラパゴス化現象ではありませんが、日本は島国で世界から隔離されたお陰で独特の素晴らしい文化が醸成されました。その結果として、“阿吽の呼吸”とか“ファジーな表現”と云う独特のコミュニケーション文化も生んで来ました。しかし、此の様なコミュニケーション方法はグローバルマーケットの中では全く通用しません。一方、国内では電話会議、テレワーク等のツールが一般的に成りつつあり、これに即したコミュニケーションの方法が求められています。このような時代に日本人が心掛けるコミュニケーションルールを一つ提案したいと思います。
それは「Conflict Communication」(葛藤のコミュニケーション)です。相手と衝突することを恐れて、核心の重要事項をオブラートに包んで遠回しに表現する事はミスコミュニケーションを引き起こす元凶です。自分の考えを理解してもらい、相手の思いを理解する為にも核心事項を色々な角度から討論する事によって本当の理解が生まれ、これがイノベーションを生み出すと思います。共通の言語とこのコミュニケーションのスキルを高めることで、グローバル競争の中で生き残り、そして成長していくチャンスは増えると確信しています。
今年も皆様のますますのご活躍を念じております。ありがとうございました。