<隠れたチャンピオン>     宮田 秀典

 

 このメールマガジンの原稿を作成中に、青色LEDの研究開発で赤﨑教授、天野教授、中村教授がノーベル物理学賞を受賞されたとのビッグ・ニュースが飛び込んできた。このノーベル賞は、誰もが諦めかけた窒化ガリウム(GaN)という材料系にこだわられた独自研究の結果を実用化レベルにまで発展させた仕事が対象になっている。これに近い分野に身を置いたものとして、一層の嬉しさを感じている。また、赤﨑先生、天野先生とは、かつて仕事で数回お会いしたことがあり、心からのお祝いを申し上げたい。

 本題に入るが、『隠れたチャンピオン企業』(注1)という本を読んだ。実は、数年前に韓国を訪問した際に、大手エレクトロニクス企業OBで、当時は行政機関のエグゼクティブをされている方とお会いした。その時、「日本には隠れたチャンピオン企業が沢山あるが、韓国にはそのような企業が少ない」というお話しを伺い、そこで初めて、「隠れたチャンピオン(Hidden_Champion)」という言葉を知った。

 この本によると、「隠れたチャンピオン」の基準として、①世界市場で3位以内に入るか、大陸内で1位である、②売上高が40億ドル以下、③世間からの注目度が低い、という表現を使っている。ドイツにはこのような企業が数多くあり、その実例が示されている。そして、これがドイツの経済力の強さの一因であると述べられている。言葉の定義に少し曖昧な部分はあるが、要するに、世界的にはあまり名前が知られていないが、世界でトップ3のシェア、または、その地域(例えばアジア)でトップシェア、そして、売上高は4000億円以下のレベル、ということになる。この売上規模から判断すると、日本では中堅企業のクラスを指していると思える。

 その後、この言葉を調べてみると、いつ頃から使われだしたかは判らないが、2009年の経済産業省の公表資料(注2)に表れているので、それなりに知られている用語のようだ。この資料では、「隠れたチャンピオンはドイツに500~1,000社あると言われているが、(中略)我が国に1,000社程度存在する「ものづくりのグローバル・ニッチ・トップ企業」と呼ばれる中小・中堅企業の多くが隠れたチャンピオンに相当するとしている」と書かれている。

 筆者は、これに関連して国内上場の中堅企業の収益性を調べたことがある。そこにおける高収益企業は、事業の規模にかかわらず、
(1)経営者の強いリーダーシップ
(2)独特のビジネス・スタイル
(3)世界、または、国内シェアがトップクラス
というような特徴があったのを記憶している。詳細を調べた訳ではないが、(1)の強いリーダーシップと(2)の独特のビジネス・スタイルが、(3)の高い市場シェアを産みだし、結果として高収益につながっていると思っている。

 ここで注目したいのは、(1)と(2)である。(1)は経営者の「志」につながるものであり、これについてはこのメールマガジンでも何回か述べられているので略させて頂くが、(2)については、自らの頭で「考える」ことの大切さを問いかけられているのだと思っている。IBM初代社長のワトソン氏の有名な言葉に「開闢以来、考えることはあらゆる前進を生み出す源だった。」(注3)というのがある。ノーベル賞物理学賞受賞の3人の先生方も、独自の考え方に基づいた研究にこだわられたとある。
 コンサルティングという立場で企業経営のサポートに身を置くものとして、この「考える」ということを、改めて自分自身に問い直してみたい。

(注1)『隠れたチャンピオン企業』ハーマン・サーモン著、2012年、中央経済社刊
(注2)『通商白書2012年版』経済産業省
    http://www.meti.go.jp/report/tsuhaku2012/2012honbun/
(注3)http://ja.wikipedia.org/wiki/Think_%28IBM%29